思い込み・・・その3

白い産卵管を出して卵を産みつけるメス

 言葉とは難しいもので、使い方によってはイメージを固定化させ、実際とは違う理解をしてしまうことも少なくありません。スズメダイが卵を「産みつける」と表現した場合、これからどんな状況を思い浮かべるでしょうか? ある博物館のHPには「メスは産卵管を伸ばして岩の表面に卵をひとつひとつ丁寧に産み・・・」と解説されていましたが、まさにそんな感じではないでしょうか?
 魚の卵は、大きく分けて「浮性卵」と「沈性卵」があり、前者は海中に放出されて漂流しながら孵化するもの、後者は一般に海底で孵化するものです。沈性卵の中には、砂や石の間などに沈んでいるだけのものと、岩や海藻などの基質にくっつくものとがあり、後者は「沈性付着卵」となります。さらに沈性付着卵には、表面の粘り気で基質に貼りつく「粘着性卵」と、卵から生えた糸のようなもので基質に絡みつく「付着糸」を持つものとがあります。スズメダイの卵が「沈性付着卵」であるところまでは間違いないのですが、「付着糸」を持つのかどうかは、いろいろ調べてみたのですがどうもハッキリしません。しかし、友人が撮ったロクセンスズメダイの卵の拡大画像を見ると、岩と接する部分を短い足のようなものがグルリと取り囲んでいるのが確認でき、少なくともスズメダイのうち何種類かは付着糸を持つ卵を産むと思ってよさそうです。
 クマノミなど、孵化寸前の卵を見ると、目玉がみな同じ方向を向いていますが、スズメダイの卵はどうもきちんとした方向性を持って産みつけられているようで、これも特定の位置に付着糸がついていることの状況証拠となりそうです。
 そうなると、ますます「産みつける」という作業は、一粒一粒付着糸の方向も整えながら、産卵床の基質に「植えつける」というイメージではないですか? ところが、実際のセダカスズメダイの産卵の様子を見ていると、とてもそのように丁寧な作業とは思えないのです。



 このセダカズメダイは、目撃したときにはすでに7~9割方産卵を終えていたようで、メスはすでに産みつけられた卵のパッチの上を、産卵管を引きずるようにして這い回っていました。とくに1か所に留まる様子もないし、卵の産みつけられていない場所を探っているような動きも見られません。産卵中のパッチの端のほうを見ると、お好み焼きにかけられたマヨネーズのように、線状にハミ出した卵も見られます。産卵開始直後を見ていないので確信はありませんが、セダカスズメダイの卵の産みつけかたは、端から、あるいは中心から順番にきれいに並べて・・・というよりも、線をなぐり書きするようにしてまず隙間だらけのパッチを作り、後から適当にその隙間を埋めていくというやり方のようです。これは「富戸の波」で紹介されていた、クマノミの産卵の仕方にも共通する部分があります。
産卵管の先にくっついた数粒の卵(矢印に囲まれた部分)

 こうなると、「一粒一粒丁寧に・・・」などとはとても思えなくなってきますが、ビデオでメスの産卵管を観察していると、さらにその思いは強くなってきました。上の画像の矢印に囲まれた部分に見える数粒の卵は、静止画だとすでに産みつけられたパッチのものと同化して見えますが、動画で見るとまだ産卵管の先にくっついたままで、メスが移動するのに伴い一緒に移動しているのです。つまり、一粒一粒どころか、産卵管にブラ下がった卵の塊が産みつけられた卵のパッチの上で擦りつけられているうちに、適当にこぼれ落ちて基質に落ち着く・・・という感じなのです。
 さて、ここで気になるのは「付着糸」の問題です。もし、セダカススズメダイの卵が粘着性卵で、付着糸なしならば、このような産み方でも適当に空いた場所に卵は落ち着くでしょう。しかし、付着糸があるとすれば、卵はこぼれ落ちた後自分で向きを整え、付着糸を基質に接触させていることになります。卵に意思があるとは思えませんから、そこには何らかの仕組みがある(例えば卵の比重が偏っていて自然に同じ方向を向くとか・・・)はずなのですが、まったく生物の仕組みとは人知を超えるものばかりで、興味は尽きません。



“思い込み・・・その3”に2 件のコメント


  1. 2ra

    そうそう、これが知りたいんです。付着糸がある部分しか粘着性(かどうかわかんないけど)があり、その他の部分はツルツルしていてくっつけず、さまよっているうちに付着糸部分が岩に触れるとようやく落ち着く……なんてことなのかなあと想像しています。あくまで想像ですけど。

  2. 魚っちゃー

    どうなんでしょうね。
    付着糸があるというのも、まだ仮定の話なんで、うっかりしたことは言えません。
    産卵管に卵がくっついている状態を見ると、粘着性は卵全体にあるようにも思えますが・・・。
    ひきずっているうちに、たまたま付着糸が基質に触れたとき、産卵管から離れるのかも・・・。
    あのいい加減な産み方見ていると、そんな気さえしてきます。(笑)