最初の一歩!


kumanomiegg.jpg産卵開始直後のクマノミ 07/13/2008 屋久島

movieicon.jpg


 MP4 27.7MB

 8月20日、魚類学者で、AUNJ(アンダーウォーター・ナチュラリスト協会)を主宰されていた余吾豊さんが亡くなられました。故ジャック・モイヤーさんとともに、さかなの生態に興味を持つダイバーを導いてくれた方で、やっと「生態ウォッチング」が認知されようとしているいま、失われたものの大きさは計り知れません。モイヤーさんも余吾さんも、三宅島で共に研究されていた時期があり、クマノミやキンギョハナダイの生態について驚くような研究成果を残しています。僕が生態観察に興味を持ったのも、まさにこうした著作などがきっかけだったのですが、偶然にも久しぶりにクマノミの生態について書こうとしているその時に、訃報に接することになりました。これも、初心に帰って観察を続けなさい・・・という、余吾さんの遺言なのかもしれません。

* * *

 というわけで、クマノミの産卵の話です。クマノミが卵を守っている姿や、産卵中の行動はわりと普通に見られるので、ついつい「いまさら・・・」なんて思ってしまいがちですが、しかし、じっくり見ているとまだまだ新しい発見があるものです。屋久島でクマノミが「最初の一粒」を産む瞬間に立ち会ったということは、現地でご一緒した「富戸の波」のALABAMAさんがすでに紹介済みです。なので、ここでは詳しい報告は省略しますが、僕が感じたのは「まあ、なんといい加減な産み方なんだろう・・・」ということでした。

 セダカスズメダイの産卵でも触れましたが、メスが産卵床の岩肌に卵を産みつけるとき、「産みつける」という言葉から想像するように、一粒一粒丁寧に植えつけるようにして産卵するわけではなく、産卵管の先にひっついた卵を岩の上でひきずり回しているうちに、ポロポロとこぼれ落ちるようにして岩の表面などにくっつく・・・・というほうが正確なように見えるのです。当然、そんな産み方ですから、卵のパッチ(卵塊)の形も親の意思で決まるというよりは、卵のほうが勝手に並んで形作られるということになります。

 産卵管から出たばかりの卵はあまり粘着力が強くはないようで、メスが少し激しい動きをしたりすると、水流に煽られてパラパラと舞い散ってしまいます。これがすぐに沈んで産卵床に着床できればいいのですが、場合によっては産卵床の外まで流されてしまうこともよくあります。ですから、産卵が始まって卵がまばらなうちは、とんでもない飛び地にぱらぱらと卵が散在していたりします。やがて、産卵を続けているうちに、隙間はだんだんと卵で埋められ、丸いパッチ状になりますが、こうしてみると子供がクレヨンをメチャメチャに動かしながら書く「日の丸」みたいなものなのですね。

 

kumanomiisogin.jpg

シライトイソギンチャクを咥えるクマノミのオス

 と、まあかなりいい加減な産み方ではありますが、それでも甲斐甲斐しいクマノミ夫婦の動きは、見ていて愛おしささえ感じてしまうほどです。今回見た産卵床は、直径40cmぐらいのシライトイソギンチャクの横にある岩で、波に揺られて長い触手がしょっちゅう卵の上に被さってきます。これが卵にとってなんらかの害になるのかどうかは分かりませんが、それでも親たちはこれがものすごく邪魔になるようで、さかんに口で触手の先を咥え、どけようとする行動を繰り返します。最初は、咥えた触手を引っ張っているので千切っているのかと思いましたが、ビデオで確認してみると引っ張るだけでかじったり、千切ったりはしていません。伊豆のクマノミは、覆いかぶさるアントクメを半月型にかじりとっていましたが、いつも共生でお世話になっているイソギンチャクにはそこまでできないのでしょうか? しかし、どけてもどけても戻ってくる触手を相手にするのは、かなり不毛な闘いにも見えるのですが・・・・。

 

kumanomieggeat.jpg

親のスキを見て卵を盗み食いするチビ・クマノミ

 イソギンチャク相手に大忙しの親をさらに悩ますものがいます。このイソギンチャクにはペアのほかに数匹の幼魚が同居しているのですが、産卵中に近づいてくると親(おもにオス)がダッシュして追い払うのです。不思議に思ってみていると、なんとこのチビたちは、親のスキを狙って卵を食べているのです。ビデオではその瞬間が動かぬ証拠として残っていますが、こういう動きは何回も見られました。このように同種が同種を食べることをカニバリズムと言って、魚類ではわりと見られることなのですが、クマノミもするということは今回初めて知りました。よく、ひとつのイソギンチャクに集まるクマノミを「家族」に例える人がいますが、これを見ればそれがとんでもない間違いだということが一目瞭然。一見平和そうに見えても、実は激しい生存競争が繰り広げられているわけです。

 カニバリズムについては、さらに驚く事実が見られました。着床しそこねた卵が、水流によって飛ばされることがあると紹介しましたが、その卵をなんとオスが食べているようなのです。口に入れたところを見たわけではないのですが、ビデオで見ていると産卵床のはるか外へ飛んで言ってしまった卵をオスが追いかけ、パクッと食いついたような動きが見られました。まあ、着床しそこねた卵は育つ見込みもないわけですから、それならいっそ親の栄養にして次の繁殖に備えるというのは合理的なことです。さらに考えると、この卵はまだオスが放精する前の段階ですから、オスにとっては自分の遺伝子とまったく無関係なわけです。親でもなければ子でもない、ただの栄養物となれば、食べない手はないということですが・・・。

 それにしても、かなり実も蓋もない自己チューの世界。「かわいい!」なんていう目だけで見ていた人は、かなりクマノミが嫌いになってしまったのではないでしょうか?



コメントは受け付けていません