ヨロンスズメダイだって?

ヨロンスズメダイ 2005/05/05 屋久島

11月5日、長年標準和名がつかずにいたままだった「アイランド・グレゴリー」(Stegastes insularis)に、「ヨロンスズメダイ」という名前がつきました。鹿児島大学の研究生による論文が魚類学雑誌に掲載されたのですが、その元となる標本が与論島での調査で得られたため、このように命名されたようです。

案の定・・・というか、周囲のダイバーの間でこの名前はあまり歓迎されていません。

初めてアイランド・グレゴリーなるスズメダイを見たのは、八丈島のレグルスダイビングで加藤昌一さんに教えてもらった時でしたが、もう8年ほど前のことになります。それ以来、近似種のフチドリスズメダイやアイスズメダイなどとともに、八丈島や奄美大島などでも観察を続けてきたさかななので結構思い入れは深く、いきなり縁もゆかりもない「ヨロン」と言われても「えーっ、なんで?」と思ってしまうのは仕方ないところ。しかも、論文掲載の前まではクリスマス島と日本では南鳥島でしか確認されていないとされていて、その後、沖縄の島々から薩南諸島、小笠原、伊豆諸島南部まで広く観察例が報告されてきたという経緯もあり、それだけに与論島だけに代表されるのには違和感も感じてしまうのです。

まあ、標本の採集地に因んで和名がつけられる例は魚類学の世界では普通のことだし、素人が文句をつける筋合いの話ではないのですが、こういう例を見るにつけ、「名前」をつけることの難しさを痛感してしまいます。標準和名というのはある意味客観的な「記号」でしかないのですが、人それぞれには経験に応じた「想い」というものが「名前」と深く結びついています。「区分」することを最優先する分類学的立場と、「情感」とともに意識する一般人的立場とは必ずしも一致するものではなく、そのズレが新しい標準和名が決められるたびにダイバーの胸に去来するモヤモヤを生じさせているのではないでしょうか。

 

ヨロンスズメダイ幼魚 2004/12/11 八丈島

 

それでも、ダイバーは比較的分類学が好きなので、新たに標準和名がつくとむしろ喜んで飛びつくような傾向さえあります。しかし、漁師さんなどは標準和名がどう変わろうとずっと使い続けている地方名で呼ぶだろうし、同じ種でも成長段階や市場価値によって名前を変えていることもしばしばです。つまり、分類学的「統一区分」よりも、自分たちの価値観に順ずる区別のほうが生活に直結するわけで、断然意味あることなのです。また、草花なども標準和名以外にいくつもの呼び名があるものも少なくないのですが、まあ俳句などを詠むに当たって標準和名では味気なさ過ぎるケースもあるでしょう。「名前」が情感と結びつくことのよい例です。

学問の世界では、統一性や明快さが最優先されるので、すべての人が満足はできなくてもある程度強引に命名しなければならないことはよく理解できます。しかし、あまりに安易に命名することは他人の感情を傷つけるケースもあるということは認識しておいてももよいように思います。とくに地名を用いた名前は、ダイビングショツプや観光の営業的要請に結びつくことも少なくなく、より慎重な配慮が必要です。「標準和名」であるならばあくまでも「記号的」であることを優先し、英名によくあるように色・形・模様などをストレートに表す名前のほうが望ましいと思うのは私だけでしょうか?

 



“ヨロンスズメダイだって?”に1 件のコメント


  1. 2ra

    今更ですけど、超賛成です!地名と人名が一番思い出しにくい。